いもぐい

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プーと大人になった僕 (2018)

プーたち撮影現場に居たんでしょ。そんで今100エーカーの森でお茶会してんでしょ?と言いたくなるリアルさ。

Christopher Robin [DVD]

Christopher Robin [DVD]

  • 発売日: 2018/11/06
  • メディア: DVD
 

今まで映画が目指してたリアルって、新しくってピカピカした生き物や人間が持つまばゆいリアルさだったと思うんだけど、それの逆打ちをしたこの作品は、ものすごいノスタルジアを醸してる。

まずプーたちのビジュアルが大正解。昨今のアニメ映画の実写化ブームで、明らかに可愛くない実写も増えてきているけど、この作品はしっかり考えてつくってある。

アニメとは似てないよね。予告編を観たときに、あまりの違いにびっくりしたんだけど、採用したのは英断だった。

みんなヴィンテージのテディベアの雰囲気をしていて、時代背景にぴったりそぐう。あれでアニメ版の目の大きいキャラクラライズされたプーさんたちだと、憧憬は描きつくせなかったことだろう。

原作のくまのプーさんを読んだことがないのに、抱いたあの恋しさはやはりすごい。ギューーーッと心臓が握られてるみたいな切なさと愛しさ。

 

大人になったクリストファー・ロビンの過去も、前半に怒涛のまとめシーンがあるので、プーを邪険に扱ってしまう彼を過度に敵視しなくて済む構成になっている。

幼き日に父が死に、家の大黒柱とならざるを得なかった責任。やっと持った家族と離れ離れとなり、今度は国のために戦わされた戦争。帰還後は再び家族のために、今度は会社への献身。

重圧にまみれて、それでも家族にそれ相応の生活をさせてやるためには自分がやらなければ、守らなければ。クリストファー・ロビンは、大人になる代償に幼さをあらゆる出来事に奪われてきた。そして今度は会社のクビ切りが彼に迫る。

今まで奪われてきた彼が、はじめて誰かから奪ってしまうかもしれないという瀬戸際。そりゃ必死にもなるはずだ。また上司役のマーク・ゲイティスがやな奴だよね~~、彼はほんとにああいう嫌味な役がうまい。『SHERLOCK』のマイクロフト然り。

 

ユアン・マクレガーは『トレインスポッティング』で便器から文字通り糞まみれになって飛び出てきてたあのスコティッシュの若造が、あんな善良なお父さん役をしていたものだから感慨深かった。CHOOSE YOUR LIFE。

ユアンは俳優としてとても好きで、こういう害の無さそうな役を演じるにはぴったりの顔つきをしてる。それが今度は『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』で悪役をするっていうんだから、いったいどんな仕上がりになっているんでしょうね。個人的には前作からして全く楽しめなかった(衣装がウケたのは共感できるけど)なのであんまり観る気は起きてないけれど。

シスターフッド映画と聞くけれど、あまりにジェンダー間の対立が目立つとか字幕が女言葉だとか、引っ掛かる点が多い。

まあそれはそれとしてもユアンが好きなことには変わりないので、この作品を観る目に若干割り増ししちゃった部分はある。ちょっとね。

ストーリーは全編示唆に溢れ、はっとさせられるような言葉に満ちていて、「うん…はい…分かりますそれ…心当たりありまくりです…」って反省したり共感したりしながら観ていた。
ラストシーンでnowhereにたたずむクリストファーとプーは、可愛くて美しくて、友情という言葉を具現化した景色で泣いちゃいそうだった。色味も構図も完璧。絵画のようなのだけど、それもちゃんとターナーのような黄味がかったイギリス絵画の光をしていて、元イギリスオタクとしては心のガッテンボタン押しまくりでした。


最後のエンドロールまで素敵。あれ、ウィンズロー社の社員たちが海辺でバカンスしてるんだよね?有給休暇取って。
くつろぐプーたちのー可愛さが良いです。